伝統工芸品としてのうちわの魅力や歴史|日本三大うちわの基礎知識

日本国内で生産されているうちわのうち、「日本三大うちわ」と呼ばれる伝統工芸品があります。香川県丸亀市の「丸亀うちわ」、京都府京都市・南丹市の「京うちわ」、千葉県館山市・南房総市の「房州うちわ」です。

これらのうちわは、経済産業大臣により「伝統的工芸品」に指定されています。伝統的工芸品とは、伝統的な技術や技法、原材料によって作られた工芸品のことです。一定の条件を満たすことで、国から伝統的工芸品の指定を受けます。

各地域で伝統的に作られてきたうちわには、どんな特徴があるのでしょうか。この記事では、古くから日本で続くうちわの産地と、それぞれのうちわの魅力をご紹介します。

伝統工芸品として人気の高い日本三大うちわ

古くから日本の生活に根づき、現代まで伝統的な手法で作られ続けている伝統工芸品。経済産業大臣から「伝統的工芸品」に指定されたうちわの産地として有名なのが、「日本三大うちわ」で知られる3つの地域です。ここでは、丸亀うちわ・京うちわ・房州うちわの産地や特徴をご紹介します。

丸亀うちわ

丸亀うちわは、香川県丸亀市を中心として生産されているうちわです。平成9年5月14日に伝統的工芸品に指定されています。うちわの持ち手と扇面が一本の竹から作られているのが特徴です。丸亀うちわの歴史が始まったのは、江戸時代初期のことだとされています。当時、金刀比羅宮に参詣する「金毘羅参り」のお土産として、赤い扇部に丸印で「金」と書かれたうちわが考案されました。さらに江戸時代中期になると、丸亀藩でうちわ作りの内職が奨励されます。こうした背景から、うちわ作りが地場産業として発展することになったのです。時代の変化にともない、国内のうちわの需要は減りつつありますが、丸亀市周辺は全国のうちわ生産量の9割を占める産地として続いています。

京うちわ

京うちわは、京都府京都市・南丹市を中心として生産されているうちわです。昭和52年10月14日に伝統的工芸品に指定されています。うちわの中骨と柄が分かれている「挿柄」と呼ばれる構造が大きな特徴です。そんな京うちわは、南北朝時代に朝鮮から伝わった系統のうちわがルーツだと考えられています。そこから現在の京うちわにつながる特徴は、江戸時代の「御所うちわ」から始まりました。御所うちわとは、宮廷に仕える土佐派や狩野派などの絵師が絵柄を描き、挿柄の構造が採用されたうちわです。なお、京うちわの中には、50~100本もの中骨がある高級品も存在します。美術品や工芸品として高い価値を持つ京うちわも作られており、高級品は主に飾りとして用いられています。

房州うちわ

房州うちわは、千葉県館山市・南房総市を中心として生産されているうちわです。平成15年3月17日に伝統的工芸品に指定されています。持ち手の部分に丸い竹を使用した「丸柄」と、竹を細かく割いてうちわの窓(=紙が貼られていない部分)を作る「割竹」が特徴的です。丸柄に使われる原料は「女竹」と呼ばれる細い竹で、その独特の丸みを生かして加工されています。江戸時代頃までの房州は、良質な竹の産地としてうちわ作りを支えていました。この地域でうちわ作りが始まったのは、明治時代頃だとされています。その後、関東大震災をきっかけに被害を受けた東京のうちわ問屋が房州に移住し、本格的に生産が拡大し地場産業として定着することになりました。

伝統工芸品としてのうちわの魅力

普段、涼をとるために使ううちわは、産地にこだわって選んでみてはいかがでしょうか。ここでは、実用品としても浴衣に似合うファッションアイテムとしてもおすすめできる、伝統工芸品のうちわの魅力をご紹介します。

丁寧に手作りされている

伝統工芸品のうちわは、現代においても多くの制作工程が職人による手作業で行われています。数々の繊細な工程を経て始めて、一枚のうちわが完成するのです。そこには熟練の職人による高度な技術が欠かせません。伝統的なうちわ作りの技術や、地域特有の技法が継承されているからこそ、味わい深いうちわが生まれます。手作りならではの品質の高さを実感できるのは、伝統工芸品のうちわの大きな魅力といえるでしょう。

生産地の違いが楽しめる

伝統工芸品のうちわは、生産地ごとにそれぞれ特徴があります。地域によって歴史的な背景や材料の特徴が異なるため、デザインや作り方の違いを楽しめるのも大きな魅力です。先ほどご紹介した「日本三大うちわ」をはじめとした伝統的工芸品以外にも、魅力的なうちわがあります。たとえば、手漉き和紙を使った「水うちわ(岐阜県)」や、防虫効果のある柿渋を塗った「渋うちわ(高知県)」などが挙げられます。全国各地の生産地の中から、お好みのうちわを見つけてみてはいかがでしょうか。

うちわの歴史

今や伝統工芸品の一つであるうちわ。その歴史は古く、古墳時代にまで遡ります。最後に、うちわの歴史をご紹介します。

古墳時代

うちわの原型となったのは、中国から伝わった「翳(さしば)」という道具です。翳は現在のうちわよりも柄が長い形をしています。身分の高い人の顔を隠して、権威を表すために使われていました。

飛鳥時代~鎌倉時代

うちわは貴族など身分の高い人たちの顔を隠すために使われていました。鳥の羽などのさまざまな素材を使って、華やかなうちわが作られていたようです。しだいに虫を払うといった目的で、暮らしの中でも使われるようになっていきます。

戦国時代

合戦時に「軍配うちわ」が用いられました。軍配うちわとは、武将が戦の指揮のために使うものです。現代では、相撲を仕切る行司の道具として使用されています。

江戸時代

江戸時代になると、うちわは庶民にまで普及しました。現代のように涼をとるほか、炊事の火起こしなど、暮らしの中で広く使われるようになっていきます。当時流行したのが、美人画や歌舞伎役者などの浮世絵が描かれたうちわです。うちわは道具であるだけでなく、芸術品としても好まれ始めました。

現在

現代は、日本各地の産地でうちわが作られています。うちわは生活に根づいた道具として、多くの人にとって馴染み深いものになりました。また、うちわに広告を印刷して販促グッズ・ノベルティとして活用したり、アイドルの応援グッズとして活用したりと、新たな活用の場面も増えています。古くから日本で続くうちわは、縁起の良い贈り物としても好まれています。

伝統工芸品のうちわを素敵な夏の贈り物に

ここまで、全国各地で作られる伝統工芸品のうちわの魅力をご紹介しました。「日本三大うちわ」のほかにも、国内には魅力的な伝統工芸品のうちわの産地が数多く存在します。天正一八年創業の老舗である伊場仙では、江戸時代に庶民から人気を博した「江戸うちわ」や、「都うちわ」を取り扱っております。江戸時代後期には、人気絵師の歌川広重や歌川豊国など浮世絵の版元となり、多彩なうちわを作ってきました。当時と同じ技法から生まれる、職人による手作りのうちわ。伊場仙のうちわは、夏の浴衣に合わせてお使いになるのはもちろん、大切な方への贈り物におすすめです。ぜひオンラインショップで自慢の「江戸うちわ」や「都うちわ」をご覧ください。